タミル新年、白い花と人生の食卓

 4月のチェンナイはもう夏の盛り。

でもどこか春の訪れにも似た清々しい可憐さがあります。

なぜなら、ニームの花が咲く季節だから。

neemflower
Neem/Indian Lirac/インドセンダン

ニームといえば、インド原産の常緑樹。高さは15m以上にもなります。私の住むチェンナイでも、至るところで目にする身近な木ですが、ヒンドゥー教では聖木として神聖視され、また樹皮、葉、種子、花すべてに薬効があるという、まるでお医者さんのような存在。さらに殺虫剤や虫除けとしても大活躍で、とにかく清めるパワーが強い植物、という印象です。

どこまでも頼りになるニームなのですが、4月頃、タミルの新年(毎年4月半ば)に合わせるかのように白く可憐な花を咲かせます。ほんのり甘い香りがするニームの花ですが、口にすると葉と同じく苦いです。この苦い花を、タミルの地ではあえて新年のお祝いの料理に使う習慣があります。なぜなら、「新年の料理にはすべての味が揃ってないといけない」から。

インドでは一般的に、食べ物の味を、塩味、辛味、甘味、酸味、苦味、渋味の六味で分類します。食事全体でその六味を揃えるわけでなく、六味すべてが揃った一品を新年に作ることに意味があるようです(タミルだけでなく、インドの他の地域でも似たような習慣があります)。

mangopachadi

義母が毎年、新年を迎える日に作るのが、このマンゴーパチャディ(Mangai pachadi)。夏の果物を代表するマンゴーは、未熟で酸味がある青いものを使います。六味でいう酸味、そして渋味がこれ。苦味にはニームの花、甘味のジャガリー、辛味はマスタードシードと青唐辛子(に赤唐辛子粉も少々)、そして塩、ギー、カレーリーフ。で、料理の師匠であるViji先生のレシピは、マンゴー、ニームの花、ジャガリー、マスタードシード、塩、ギーのみ。さてお味はというと、どこか懐かしい甘酸っぱい味。ニームの苦みも隠し味程度でちょうどいいアクセントに。ジャムのようにパンに塗っても美味しそう。

それにしてもなぜ「新年にはすべての味」にこだわるのか。以前、義母に聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。

「いろんな味が混ざってるのが人生だから」。

なるほど。確かに、マンゴーパチャディのように、いろんな味が満ちあふれてこそ人生も美味しい、ひとつまみの苦みも人生全体で考えると素晴らしい隠し味、といえるかもしれません。また、身体にいいニームを食べることは、皆が1年健康であるようにという祈りも含まれているのでしょうね。

neemrasam

ニームの花を使ってもう一品。これも「すべての味」路線。 ニームの花のラッサム(Neem Flower Rasam )です。タマリンドの酸味と、ニームの花の苦味、ジャガリーの甘味、赤唐辛子とマスタードシードの辛味、塩、苦味はターメリック。トゥールダールは少量をお湯で戻してマッシュ。ギーでローストしたニームの花は香ばしくてじわっと美味しい。トマトやニンニク、クミンなども全く入れずに、繊細な花の味わいを楽しむ爽やかで優しいラッサム。ご飯と一緒にサラサラといただきます。乾燥したニームの花は一年中手に入るのですが、やはり生の花のフレッシュさにはかないません。

neemtree_edited-1

ニームの花の時期には、つい空を見上げるように歩いてしまうのですが、その時に不思議なことに気がつきました。放射状に規則正しく広がるニームの葉は、遠くから見ると、まるで渦を描いているかのよう。波紋がたくさん空に浮かんでいる様を眺めていると、見上げているつもりが、実は見下ろして水面を見ているような不思議な気持ちに。

太古から、この不思議な力を持つ木に守られて、人々は生活してきたのだなー、

いつまでもこの木がある街でいてほしいなー、

と新しい年を迎えながら感じました。

Tweet about this on TwitterPin on PinterestShare on Facebook