女たちのメニュー会議

foodmeetingweb

Menu meeting for Wedding banquet by all female members in the family, Kanadukathan village, Tamil Nadu

チェッティナードゥの旅の話をもう少し。

婚約式に招待されたはずの私と香取薫先生。でも、会場であるマダムのお屋敷に花嫁となる女性の姿は見当たりません。続々と親族らしき招待客が集まり、男性が左側、女性が右側、そして花婿サイドが前方、花嫁サイドが後方、ときれいに分かれていきます。これからどんなことが始まるのかちらりと近くの人に聞いてみると、

「朝食を食べてサインをしたら終わりよ」

サイン?そういえば、ホール脇の部屋に人々が出入りしています。この結婚に意義なしという承認の署名を行っているとのこと。つまり、婚約式とは、親族全員の承認を得るためのものなのです。この式は花婿側の自宅で行われているので、花嫁は結婚するまで嫁ぎ先の敷居をまたぐことができません。

「関係者全員の承認」は、折りにつけ、チェティヤール達の基本であるように感じられました。

その一つが女達のメニュー会議。婚約式も終わり、ほとんどの親族が帰った後、花婿サイドの一部の女性達がホールに残って、なにやら話し込んでいます。と、

「あら、あなたもメニュー会議に加わりたいのね!」

女性の一人に声をかけられました。メニュー会議?聞けば、結婚式のメニューを決めているのだというのです。

これは、どこの家でも行う昔からの習わしのようですが(これがチェッティヤールコミュニティ特有のものなのか、この地域では一般的なものなのかはわかりませんが、チェンナイ在住に知り合いの何人かに聞いてみたところ、そういう風習はないとのことでした)マダムの一族には特に食べ物にうるさい人が多く、いつも大変白熱するのだそうです。といっても、実際に話を進めているのは数人で、他の人達はあれこれと意見を言っているだけなようですが、「だらだらと続くのでうんざりすることもあるけれど、でも、少数の意見を無視する訳にもいかないのよ」と当主のマダム。ここでもやはり「全員の承認を得る」必要があるのです。

結婚式は1週間近く続く事もあり、料理が重ならないように、各日3食全てのメニューを決めていきます。会議の後に必要な野菜やその他の材料を注文するので、ロスがでることもありません。なるほど。これは面白い。

そういえば、「全員の承認」が必要な例として、こんな話を聞きました。チェッティナードゥ特有の巨大なお屋敷(マンションと呼ばれます)は、個人名義でなく複数人の名義であることが多く、その扱いには関係者全員の承認を得なければいけないので、個人の一存で売ることはできないそうです。マンションの維持には厖大な費用がかかります。見学料を取って維持費にあてているお屋敷もありますが、朽ち果てるに任せたお屋敷もたくさんありました。

一見、面倒くさいようなこの全員主義。でも、それが一族の団結力につながり、チェッティヤール文化を守る要になってきたのではないでしょうか。多くの人がチェッティナードゥを離れて都市部に住んでいるのですが、今回のような婚約式などの行事の際には、必ず一族全員がチェッティナードゥに集まります。何事にもこの地が基本。その団結力の強さは、安住の地を求めて各地を移動し、スリランカに向かい合う海辺の町に一旦落ち着くも、津波の被害にあって多くの人々が家族をなくし、内陸に移り住むことになったというチェッティヤール・コミュニティの歴史に関係しているのかもしれない、と思いを巡らせてみたりします。

ちょっと話はずれてしまいましたが、「関係者全員の承認」を得なければならない重要事項にメニューの話し合いが入っていることは非常に興味深いです。やはり食は作って食べるだけでなく、語ってこそ文化なのだと思います。食に対する彼らの向き合い方と、チェッティナードゥ料理の特異な存在感は無関係ではない気がするのです。

さて、どんなメニューができあがったのでしょうか。伝統的なチェッティナードゥ料理に加え、北インド料理の名前が登場したりと非常に気になる展開だったのですが、お迎えが来てしまい、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしたのでした。

そういえば、今月がお二人の結婚式だったはず。末永くお幸せに!

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